2011/10/06
彼のすい臓がんが発見されてから遠くない将来にこの日が来ることは分かっていました。
そうでなくても人間には必ず幕を引く時が来る。
今思えば彼には終わりの日がある程度の確度で示されたことによって、そこから逆算して自分が残りの人生で何をすべきで何をすべきでないかを改めて見つめ直すことができたのではないでしょうか。
彼が自身の生涯を通して伝えたかったことは2005年にスタンフォード大学の卒業式で語った言葉に集約されていると思います。
すなわち、
『人生はそれを全うする人自身のものであって誰のものでもない。だから自分の心に正直にひたむきに生きるべきだ。』
ということです。
何かに夢中になり、それが将来どんな役に立つのか考えても当時は分からない、仕事でも恋愛でも趣味でも何でも同じだと思います。
しかし「夢中になれるものを見出せた」ということ自体がその人にとって大きな喜びとなるし、結果がついてくれば自信にもつながるでしょう。
僕のこと
僕は高校の入学祝いで当時珍しかったパソコンを買ってもらいました。家が裕福でなかったのでMacではありませんでしたが(笑)、自分が書いたプログラムが初めて動いた時の感動は20年以上経った今でも忘れません。
当時はインターネットもなく、ただ一台のパソコン上でプログラムを組んで遊ぶだけ。小さな世界でしたがそれでも何か自分が全てを支配できるものが目の前にあるということがこの上ない喜びでした。
その気持ちを抱いたまま仕事は何の躊躇もなくITエンジニアを選びました。しかし現実はそう甘くはなく、自分の好きなものを作るという考えかたから誰かの要望に合わせてものを作るという考えかたに転換するのに相当苦労しました。
「やっぱり向いてないかもしれない」「いつやめようか...」、悶々とする日々が5年続きました。しかし両親に学費を出してもらってコンピュータの専門学校に行かせてもらった手前、簡単にやめることなどできません。恩を仇で返すことになるからです。
なかなか活路が見出せずに時間だけが過ぎていく中、1995年頃からインターネットの商用利用が本格的に始まり、たまたま仕事でインターネット技術を扱う部署に異動になったことでそれまでの鬱積した気持ちが嘘のように消え、毎日毎日勉強したくてしかたがない日々が始まりました。
そこから10年以上経った今でもその気持ちは継続したまま、現在は諸事情によりやや毛並みの違う業務に就いていますが基本的にはITエンジニアが天職だと思っています。
天職と思える職業を見つけられた自分は本当に幸せだと思うし、僕のように特に飛び抜けた才能もない人間でも自分の気持ちに素直に従うことで見えてくるものがあると思います。
Steveのスピーチは卒業生に向けてのものですが、年齢や性別・人種・環境などを越えて自分がまだ何ものなのかが分かっていない全ての人に対するエールではないでしょうか。
僕自身、彼のスピーチに深く共感し、いつも背中を押してもらっています。
運命は今日の日を選びましたが、彼の想いは広く深くたくさんの人の心に刻まれて生き続けていくことでしょう。